彫刻ボランティア活動報告
朝倉彫塑館収蔵庫訪問
朝倉彫塑館
リポーター : Y.T.
今回の研修は、朝倉彫塑館収蔵庫にご縁があり、伺いました。
当日、日暮里駅に集合し、生地問屋さんや小学校、民家などが立ち並ぶ、東京といってもとても静寂な下町の道を歩くこと20分…。大通りを少し入ったところに収蔵庫はありました。建物を見た瞬間、一つ驚いたことが…、当時「朝倉文夫さんに、作品を作ってもらうのは、ステイタス中のステイタス!」というほど、実力も評価も高い作家の「朝倉文夫さんの作品が、ココにあります。」と、言わんばかりに、建物に「朝倉彫塑館収蔵庫」と、書いてあります。大事な作品たちを、防犯上ひっそりと保管するのではなく、堂々と(!?)保管しているのがなんとも太っ腹で「さすが!大物!」と唸らせるものでした。(私だったら、気づかれないように、しまっておきます)
収蔵庫の前で中へ声をかけようと待っていると、すこしふらつき、シャッターがガシャン、ガシャン…。「今日はスゴイ強風だ…」とのんきに思っていたら、みんな『地震だ…』と…。風じゃなかったのねっ!!少し心配していましたが、学芸員の村山万介さんが「休館で、たくさん作品が帰ってきているから散らかっていますが…」と、顔で迎えてくれました。早速中へお邪魔すると、1階に第1収蔵庫。ここは搬入出がしやすいように大物を保管しています。そのドアを開けてくださった瞬間…、薄暗がりから見える、大きな人!人!!人!!!「うわーっ!!コワイっ!!!」コレが、私の第一印象でした。だんだん気持ちが落ち着いたところで、よく見たり像と像の間にそっと入ってみたりすると、まるで自分が、こびとなったような気持ちです。見覚えのある顔がたくさん。そして石膏や胸像や足元だけの像も…。大きい像は組み立て式だそうです。運ぶのは大変だろうと気になっていると、「FRP素材のものは、2人でも運べる」とのこと。またブロンズは3mmまでと、薄さを競っていた時期もあり、日本の鋳造技術は高いとのこと…。まだまだ彫刻について知識の浅い私は、日本の技術の高さを全然知りませんでした。
たくさんの驚きで心が忙しい中、大きなエレベーターに乗り2階へ。この収蔵庫は第5収蔵庫まであり、各フロアーが収蔵庫になっています。第2収蔵庫は60点ほどの全身像。第3収蔵庫は150点ほどの胸像・首像。第4収蔵庫は胸像など。朝倉文夫にデビューと同時に名声をも与えた大学の卒業制作の作品《進化》も…。第5収蔵庫は、旅(貸出)から帰ってきたばかりの晩年のシリーズ作品の《猫》たちが、38匹。小さい作品が収蔵されています。館内の空調は『乾燥』に設定。その理由は、針金や木で形を作り、滑り止めに棕櫚縄を巻きつけ、粘土で肉付けした型から取った石膏原型の中は角材と鉄をはっていて、角材が湿気を吸って膨張すると石膏を突き破ってしまうからだそう…。石膏ってそんなにデリケートなものだったとは…また石膏型はブロンズの着色をして展示をするそうなのですが、この着色が痛むのも理由の一つだそうです。鋳造にいたっては、現在、東京・金町と埼玉・川口の工場に依頼しており、年々少なくなっているそうです。朝倉彫塑館では、「作品」と「コピー」の区別という観点から、必ず鋳造年、鋳造者名を作品に入れています。基本的に石膏原型から鋳造できるのは3回までだそうで、痛みやすい石膏原型の状態を見ながら、作品を大切に残していくのです。
また村山さんが各階でお話してくださる彫塑家・朝倉文夫の素顔が垣間見られるエピソードや、村山さんの朝倉作品への想いが感じられるトークがとても興味深いのです。2011年3月11日の東日本大震災の被害について。第3・4収蔵庫にある胸像・首像には、いまだに誰なのかわからない人が多いけれど、ご遺族からの依頼で判明することがあるほか、紳士録から、辿って行くことができるのではないか…、とか、38匹の帰ってきた《猫》たちを、説明してくださるのに、ひしめきあう《猫》たちの間をそっとつま先立ちで入り、手にとって説明してくださる仕草に朝倉作品に対しての村山さんの愛。朝倉文夫はドローイングやデッサンはせず、お弟子さん泣かせだったけれど、常に大好きな猫をひざに置き、撫でていたのは、猫の体を感覚で覚えていたのだろう…という作品製作過程での裏話。そして朝倉文夫は、肖像彫刻がステイタス・シンボルとなっていた時代とデビューする時代がマッチしたことで、名声を得、それを一言で、言い切る批評家が多いけれど、確かに、そうなんだけれど、本当は簡単に一言では言い切れないほどその裏づけが必ずある深い人であることを、顔をほころばせながらお話してくださった村山さんの作家・朝倉文夫への愛を強く感じました。
現在、朝倉彫塑館は耐震補強と原型回帰改修のため2013年3月までの予定で休館していますが、朝倉文夫は自分で地下を掘って螺旋階段を作り、移動や大作の制作を容易にしたり、アトリエを制作のために改良したりしていたため、新しい発見がたくさんあるとのことで、休館がもう少し長引きそうだとのことです。まだ先ではありますが、再び開館した際には足を運ぼうと思います。
今回の研修で、彫刻作品は実はたくさんの人の手に助けられ完成していることを知りました。そして作家自身がたくさんの人に愛されていてこそ、作品という形が成り立つのだと感じました。今後、彫刻作品を見た時にたくさんの想像が出来そうです。また彫刻ボランティアの活動でも、作品に関わってくださったたくさんの人の想いを汚さないよう、作品を良く知り、良い状態を維持できるようにしていきたいです。
*彫刻ボランティア担当学芸員より*
今回の研修会でお世話になりました朝倉彫塑館研究員・村山万介氏が3月にご逝去されました。朝倉文夫の芸術についてユーモアを交えてお話しくださった姿が忘れられず、突然の訃報に驚きを禁じ得ませんでした。彫刻ボランティア一同、心よりご冥福をお祈りしています。