彫刻ボランティア活動報告

《泉ー9個からなる》と彫刻について

《泉ー9個からなる》と彫刻について 講師:遠藤利克氏(彫刻家)


埼玉県立近代美術館

彫刻ボランティア特別研修会 
リポーター : T.G.

 《泉―9個からなる》は、どのように生まれたのか。その世界はどのようなものなのか。

 過去の作品から現在の作品におけるつながりや、作品の精神性などを、スライドトークにより、とても詳しく解説して頂きました。遠藤さんはとても、気さくな感じの印象で、また彫刻への情熱はとても強く感じられました。

 作品の《泉》は、素材の木を炭化させています。そのためには、燃やさなければなりませんが、そうした制作行為が、解説からとても重要な意味を示していると分かりました。まずは、《泉》以前に制作されてきた遠藤さんの彫刻ですが、《泉》の円環状になるまでに、幾つか作品になってきました。そこには、制作の根底にある大切な意識がありました。それが、水というテーマでした。

 円環は、原型として大きな桶から始まります。やがて底を抜くことにより、円環となり、中のやわらかな丸みをそのままに、天(神霊の属する聖界)地(人間の属する俗界)を結ぶ大切な役割を果たす形となりました。(無限の器)

 最終的には、燃やすことが、とても神聖な儀式のように受けとられるところであり、また哲学的なところでもあると感じました。

 そこで、燃やすこととは、供犠(ぎょうぎ)であるとのことです。その意味は、神霊に対して供物や生贄(いけにえ)を捧げることとあり、その犠牲を聖界と俗界との媒介物として位置づけることができるとありました。つまり、ここでは、円環を燃やし炭化させることが供犠となります。

 それらにより、俗界は安定を回復するとともに生命力、浄化力、繁殖力を人々にもたらすという意味を成してきます。また、9個の配置については、炭化させるときの状態で自然の中にある様子をイメージできるようにし、位置にきまりはないそうです。

 さらに、制作にあたって生まれ故郷の岐阜県高山市での祭りからインスピレーションを得てきたことがあげられ、それが制作に大きな影響をもたらしてきたということでした。制作の後に遠藤さんは、昔から祭りの行われている場所の高山市の遺跡を改めて調べたそうです。すると、遺跡の形状は、木柱の下に石がありその下には、人骨が発見されていたことから、宗教的な儀式によって木柱がたてられた可能性があるとのことでした。また、木柱を円形状に並べた環状木柱列の遺跡は日本海側に多く分布していて、それらの下から、動物たちの骨が多く発掘されていることから、貝塚のようなものではなく、儀式的に埋められてきたと予測できるとのことです。(現在も調査中)

 まとめとして、遠藤利克さんの彫刻は、精神世界が多くを占めていて、制作の意図を知ることで、さらに深く鑑賞できると思いました。この円環が、人間の身代わりになって、これまでの自然界での人間の罪を引き受けてくれているようにさえ感じました。

 今回は、彫刻を写真で鑑賞させて頂きましたが、今後、作品を鑑賞できる機会に恵まれたら、彫刻の作り出す空間が、直接的に訴えかけてくれるのではないかと思いました。

 今後の遠藤さんの彫刻がどのように制作され、またどのような世界に広がっていくのか、とても楽しみです。

《無限の器について)》
人は、古代から水によって、生かされてきました。その水を、地底から発掘した遺跡のように考えると、古代の水そのものが、貴重なものに思えてきます。 初期の制作で、地底に器を埋めて水を中にいれたものがあります。その器に入った水は、無限の可能性を秘めていて、地底と地上を繋ぐ永遠性と連続性を生み出すものとなりました。