川口アート散策
川口アートファクトリー 〜 masuii R.D.R 〜 川口アートギャラリー 〜 川口西公園
彫刻ボランティア特別研修会
リポーター : K.K.
2月の研修会はまだ寒い時期ということで、彫刻洗浄は行わずに県内のアート散策。場所は、川口元郷から川口駅周辺を選び、野外彫刻見聞、ギャラリーなどの探索を実施しました。
埼玉高速鉄道「川口元郷駅」に集合し、まず向かったのは駅から北に5分ほどのロケーションにある「川口アートファクトリー」(KAF)。かつては鋳物の町として知られた川口市で、戦前は軍需工場、戦後は機械部品の鋳物工場として稼動してきました。かつて倉庫や作業場として使用されていた空間を、近年アーティストのアトリエ兼レジデンツとしてレンタル。また撮影や展示に利用できる空間も併設し、独自のアート発信基地としての一面を持つようになりました。
何人かのアーティストのアトリエと住居を見せていただきましたが、外観は普通の倉庫にしか見えないのに、一歩中に入るとまったく別世界のアート空間になっているギャップが斬新です。また、ひとりひとり工夫を凝らした内装も面白く、制作の現場を見せていただき感銘を受けました。
義村京子さんは花や人物をモチーフに描いていますが、人物と宇宙を繋げる作風は時間と空間を超越した視点を感じ取れます。オーガ フミヒロさんは埼玉県の絵具メーカー「クサカベ」のアキーラという絵具を使うことで、新たな表現に挑戦しているようです。
ブロンズ彫刻を長年手がけてきた坂井公明さん。男性彫像を主に製作され、近年では動物像にも力を入れているとのことです。横瀬浦公園設置の「ルイス・フロイス像」は、写真の残っていないルイス・フロイスの姿を伝える像として認識されているとのこと。「ロダンなどの思想を受け継いでブロンズ制作の歴史をつないでいきたい」という言葉にはたいへんな重みを感じました。
KAFを後にし、続いてはJR川口駅方面へ。六間道路から樹モール通りを散策すると、そこかしこに立体作品が設置されているのに気づきます。鋳物の技術はブロンズ作品の鋳造に大きな関係がありますが、こうして街角にいろいろなアートに触れ合える環境があるのは、伝統的な技術が現在に繋がっていることを感じさせてくれます。
鋳物工場の跡地に建設されたマンション「シティデュオタワー」にはいくつもの作品が飾られています。樹モールや裏手の公園には、金属製の「ドン・キホーテ像」をはじめとする大きな作品も目を惹きました。
樹モールを抜けて市役所通りに入ると、「masuii R.D.R」があります。NPOとして設立されたこのギャラリーは、古い公団アパートを改装したスペースで、さまざまな企画展やワークショップが行われています。訪問時には、ホームレスの人々に焦点を当てた写真展が開催されていました。2階はショップとなっていて、陶器やガラスのうつわやアクセサリーなどが並べられています。
さらに足を伸ばして、旧サッポロビール工場跡地に建てられた川口市立アート・ギャラリー「アトリア」を訪問。アトリアは収蔵品を持たない美術施設で、ワークショップや展覧会を開催しています。訪問時には市内の高校のアート発表展示が行われていました。建物の床材には旧サッポロビール工場の土台松杭が使用されているそうです。学校や子供たちとのかかわりを重視した、地域密着のアート・スペースとしてすっかり定着しているように感じられました。
また、建物前スペースにKUMA作「SAILING TREE」という鉄のオブジェもありました。
さて、川口市内を2キロほどアート散策して最後のポイントは、西口にある「川口西公園」。ここは、平成8年に川口市が設けた「彫刻検討委員会」により選ばれた彫刻10数体が、散策路に沿って設置された、埼玉県内で有数のパブリック・アート・スペースです。
アトリア側から地下を通って西口に出、公園に入るとまず関井一夫「家族」を見ることができます。銅版による鍛金作品。続いて川口出身の2人の作家、長谷川善一のブロンズ「くろがね号のゆくえ2」、三井泉の石彫「AI間」。そして印象的な人物像のブロンズが3点、朝倉響子「ミッシェル」、佐藤忠良「裸のリン」、佐藤に師事した笹戸千津子「纏う女」が私たちを迎えてくれます。一部、破損や緑青の影響なども見て取れましたが、全体的に作品の状態はどれもそれほど悪くないように思えました。
具象の人物像の背後には、建畠覚造のステンレスによる「WAVING FIGURE」、オレグ・クドリャシォフの色彩豊かな「冬の祭典」といった抽象金属作品がバランスよく配されています。
さらに進むと、富田眞州「豊かな想い」、市村緑郎「風の交差点」というこれまた印象的な2点のブロンズがあります。富田作は抽象、市村作は具象ですが、いずれも人間と自然、時間と空間の一体化を全身で表現するような作品です。
その先は「川口総合文化センターLILIA」近くとなり、花壇のあるエリアとなりました。岸田克二「S-8-20 KAWAGUCHI」、堀内健二「青春」、クリス・バジロウ「川」といった、作家の想いのこもった作品が空間を彩っています。
最後の作品です。「花と彫刻の広場」にて花壇に囲まれ、見晴らしもよい場所に設置された船越保武「渚」。素晴らしく美しい、女性の立像です。しかし…
なぜこの彫刻だけなのかわかりませんが、鳥(おそらく鳩)による糞害がひどく、とても汚れていました。この公園は管理組織が年に1回は全体的なメインテナンスを行っているようですが、こうした汚れはボランティアでこまめにの洗浄できるようなが体制があればと切実に思いました。ほかの彫刻はそれほど汚れてはいないことから鑑みると、この作品だけがおそらく鳥の飛んできやすい位置にあるということだと思います。せっかくの素晴らしい作品、素晴らしい立地条件にあるのですから、なんとかしたいと考えました。
とても盛りだくさんな川口アート散策となりました。作家のアトリエ、ギャラリー、野外彫刻など、カテゴリーは違えど、私たち市民ボランティアが身近な後にどのように関わっていくとよいのかということについて、とても示唆に富んだ一日になったと思います。