野島康三と斎藤与里 ―美を掴む手、美を興す眼

2025.11.1 [土] - 2026.1.18 [日]

 写真家・野島康三(のじまやすぞう/1889-1964)と洋画家・斎藤与里(さいとうより/1885-1959)。ともに埼玉県に生まれ、大正期に交流を結んだ二人は表現者として制作活動を続ける一方で、画廊経営者やコレクター、あるいは、評論家や教育者として同時代の美術を支えました。
 浦和出身の野島康三は、明治末期から大正期にかけて、「芸術写真」と呼ばれた潮流のもと、絵画からの影響を受けつつも写真ならではの表現を追究しました。1930年代には「新興写真」という新たな動向に身を置き、中山岩太、木村伊兵衛と共に刊行した『光画』誌上や国画会写真部などで作品を発表します。野島は写真家、写真館の経営者として活動する一方、1920年代から30年代には多くの芸術家と交流し、自らが経営する画廊・兜屋画堂や自邸での展覧会の開催、出版物における美術品の撮影の仕事などを手がけました。
 斎藤与里は加須に生まれ、京都で洋画を学びました。1906年にはフランスに留学し、帰国後は『白樺』や『早稲田文学』などに評論を寄せながら、西洋の芸術思潮を咀嚼した作品を発表し、新傾向の美術を先駆的に紹介していきます。やがて南画などの影響のもと日本の風土に根差した油彩画を追い求め、晩年は故郷の加須に取材した伸びやかな表現を開花させました。
 本展覧会では、野島と斎藤の交流を起点に、それぞれの足跡をたどるとともに、岸田劉生、萬鉄五郎、関根正二など関連作家の作品や資料を交えて、両者が美術へ注いだ眼差しにも光を当てます。評論や展覧会、出版など多岐にわたる活動を通じて同時代の美術を支えた埼玉県ゆかりの二人の作家の視点から、日本近代美術の一側面を紹介します。

会期

2025年11月1日(土) ~ 2026年1月18日(日)

※会期中一部展示替えがあります。
 前期:12月7日(日)まで
 後期:12月9日(火)から

休館日

月曜日(ただし、11月3日、11月24日、1月12日は開館)、12月30日(火)~1月3日(土)

開館時間

10:00 ~ 17:30(展示室への入場は17:00まで)

観覧料

一般1400円(1120円)、大高生1120円(900円)

※( ) 内は20名以上の団体料金 
※中学生以下は無料
※障害者手帳等をご提示の方 (付き添いの方1名を含む) は無料

※企画展観覧券(ぐるっとパスを除く)をお持ちの方は、併せてMOMASコレクション (1階展示室) もご覧いただけます。 

主催

埼玉県立近代美術館、東京新聞 

助成

公益財団法人 花王芸術・科学財団

特別協力

京都国立近代美術館、加須市教育委員会

広報協力

JR東日本大宮支社、FM NACK5 

見どころ

1.日本近代の写真史、美術史に足跡を残した2人の作家を紹介

写真家・野島康三と洋画家・斎藤与里はそれぞれ、明治後期から昭和中期にかけて先駆的な活動を展開し、独自の美を追究した作家として、日本近代の写真や美術の歴史に足跡を残しています。本展覧会では、2人の作家の活動を、代表的な作品や資料を通して紹介します。

2.関連作家の作品や資料を通して、同時代美術への眼差しを検証

野島と斎藤は表現者として制作を続ける一方、野島は画廊の経営者やコレクターとして、斎藤は評論家や教育者として、ともに美術の振興に貢献しました。また、斎藤は野島が経営した兜屋画堂に協力するなど、大正期に結ばれた両者の交流は、同時代美術を支えた彼らの活動にも大きく関わっています。本展覧会では、両者と関わりの深い作家の作品や資料を紹介し、両者が美術へ向けた眼差しについて検証します。

3.埼玉県ゆかりの作家の活動を辿る、当館単館開催の企画展

浦和出身の野島康三と、加須に生まれ晩年を故郷で暮らした斎藤与里。埼玉県ゆかりの両作家の活動を紹介する本展覧会は、当館のみの開催です。野島については当館ではまとまった規模で紹介する初めての機会に、また、斎藤の活動を回顧する当館の企画展は「斎藤与里とその時代」(1990年)以来35年ぶりとなります。

章構成

第1章:新しい芸術の息吹
第2章:大正期美術と兜屋画堂
第3章:美術家との協働―野島康三の仕事から
第4章:清新なる感覚を求めて―野島康三とモダニズムの時代
第5章:斎藤与里の眼差し―私の描くものは私の主張であり、賛美である

出品予定作家

野島康三、斎藤与里
梅原龍三郎、恩地孝四郎、川上涼花、岸田劉生、関根正二、中川一政、中原悌二郎、藤井達吉、村山槐多、萬鉄五郎

関連事業

講演会「写真家・野島康三 静かなイノベーター」

講師|光田由里(多摩美術大学アートアーカイヴセンター所長・大学院教授)
日時|12月7日(日曜日)15時00分~16時30分 ※開場は14時30分
場所|2階講堂
定員|80人(申込不要、当日先着順)
参加費|無料

ワークショップ[銀塩写真の制作体験]

講師|佐野陽一(美術家)
定員|各10人(事前申込制、応募者多数の場合は抽選・要参加費)

①「モノクロームのてざわり」(大人向け)

内容|引き伸ばし機を使って、ネガから印画紙にモノクロームのイメージをプリントします。
日時|1月11日(日曜日)13時30分~16時30分
対象|高校生以上

②「ひかりのえ」(子ども向け)

内容|カメラを使わずに、物のシルエットや質感を直接、印画紙に写します。
日時|1月12日(月曜日・祝日)13時30分~16時30分
対象|小学校3年生~中学生

担当学芸員によるギャラリートーク

日時|11月 9日(日曜日)15:00~ [60分程度]
   12月14日(日曜日)15:00~ [60分程度] ※手話通訳、文字表示付き
場所|2階展示室
費用|企画展観覧料が必要です。
協働|NPO法人エイブル・アート・ジャパン
 

スライド・トーク

ご希望のグループにスライドを使って本展覧会の見どころをご案内します(予約制)。
お問い合わせ、ご予約は教育・広報担当(TEL: 048-824-0110)まで。

図録

展覧会図録『野島康三と斎藤与里』(判型、価格未定)を当館ミュージアム・ショップで販売いたします。

報道関係者の方へ

企画展「野島康三と斎藤与里 ―美を掴む手、美を興す眼」を開催.pdf


野島康三《題名不詳》1921年|ガム・プリント|京都国立近代美術館蔵


野島康三《S氏肖像》1921年|ガム・プリント|京都国立近代美術館蔵


野島康三《慈姑の図》1927年|ブロムオイル・プリント|京都国立近代美術館蔵


野島康三《チューリップ》1940年|ゼラチン・シルバー・プリント|京都国立近代美術館蔵


斎藤与里《法々華経》1909年頃|油彩、カンヴァス|碌山美術館蔵


斎藤与里《朝》1915年|油彩、カンヴァス|埼玉県立近代美術館蔵

 
斎藤与里《台湾淡水風景》1938年|油彩、板|碌山美術館蔵


斎藤与里《秋海棠》1950年|油彩、カンヴァス|加須市蔵


岸田劉生《川幡正光氏之肖像》1918年|油彩、カンヴァス|東京国立近代美術館蔵
※野島邸での岸田劉生の個展開催(1922年)の後、野島が岸田から直接買い求め、愛蔵した作品


川上涼花《あざみ》1914年|油彩、カンヴァス|神奈川県立近代美術館寄託 photo: sekiphotos
※フュウザン会などで斎藤と共に活動し、野島とも親交を結んだ洋画家・川上涼花による静物画