日本の近代絵画は、フランスの近代絵画から大きな影響を受けて発展してきました。異国への憧れを抱きながら、どこにいっても避けられない自らの出自と常に向き合うことを余儀なくされた日本の画家たちは、それぞれの個性の行方を求めて様々な表現を試みたのです。一方、ロート レックが日本の浮世絵から影響を受けたように、日本の美術が西洋の近代美術に刺激を与えたこ とも見過ごせない事実です。このコーナーでは、このような影響関係に着目して、ピカソ、シャ ガール、パスキン、ロートレックら海外作家の作品と、森田恒友、斎藤豊作、佐伯祐三、古賀春江ら日本人作家の作品を交えて、フランスと日本の影響・交流関係を探ります。
常設展示室 1F 2008 MOMASコレクション 第4期
2009.1.22 [木] - 4.19 [日]
近代の絵画ーフランスと日本
田中保ーシアトル時代を中心に
田中保(たなか・やすし, 1886/明治19-1941/昭和16)は、現在のさいたま市岩槻区に生まれ、シアトル、そしてパリで活躍した画家です。日本の美術界での評価はまだその途上にありますが、当館では多数の作品を所蔵しており、企画展でもその全体像を紹介するなどしてきました。パリではサロンに出品するなど、画風を確立して一定の評価を得ていたようですが、最初に渡ったシアトルでの活動時期についてはまだ十分な調査・研究がなされていません。今回は、田中保の作品を所蔵する美術館や所蔵家の協力を得て、具象と抽象を行き来し、実験性に富んだ表現にも挑戦していた、田中保のシアトル時代を紹介する初めての試みです。埼玉県出身の画家が、海を渡り、独学で絵を学んで画家となるまでの苦悩や実験の痕跡を感じ取っていただけるでしょう。
キュレーターの視点ー重層するイメージ
「キュレーターの視点」は、新しい視点からコレクションの魅力を再発見する試みです。今回 は、複数のイメージが重なる効果に注目して、3つのキーワードをヒントに構成しています。 「糊で貼り付ける」という意味のフランス語から派生した「コラージュ」は、印刷物の切り抜き などを画面に貼り付ける技法です。生きものをモチーフにした草間彌生の作品では、異質な要素 の衝突から新しいイメージが生まれる面白さが感じられます。写真では、多重露光の技法によっ て、映像表現のような「オーバーラップ」するイメージが生まれます。レントゲン写真のような 鳥の姿が連続して重なるマレの写真では、飛翔という運動が見事に表現されています。さらに、 立体的な「レイヤー(層)」の重なりによって、深みのある空間表現が実現できます。今回は、 特別出品として、層状の構造を備えたユニークな作品で注目を集める吉賀あさみ(よしが・あさみ, 1972/昭和47-)の作品によって、「重層するイメージ」の新しい可能性を紹介します。
リサーチ・プログラムー菅野圭介の世界
菅野圭介(すがの・けいすけ, 1909/明治42-1963/昭和38)は、1930年代にデビューし、戦後 も独立美術協会を中心に活躍した画家です。単純化された画面、抒情的な色彩、そして独特のマ チエール(絵肌)に特徴があり、1950年代まで重要な画家として紹介されていました。晩年は画壇の中心には位置しておりませんでしたが、今後、再評価の機運が高まることが予想されます。 今回は、当館収蔵の菅野作品5点に、特別出品として、妻であった画家・三岸節子の作品1点を加 え、両者の作品を比較することができる展示となります。小規模な展示ですが、菅野圭介という まだあまり知られていない画家の世界と出会う貴重な機会となることでしょう。
会期
2009.1.22 [木] - 4.19 [日]
休館日
月曜日
開館時間
10:00~17:30 (入場は17:00まで)
観覧料
一般200円(120円)、大高生100円(60円)
※( )内は20名以上の団体料金。
※中学生以下と65歳以上、障害者手帳をお持ちの方(付き添い1名を含む)はいずれも無料です。展覧会入場時に確認いたしますので
・65歳以上の方は、年齢を確認できるもの(運転免許証、健康保険証等)をご持参ください。
・障害者手帳をお持ちの方は、手帳をご持参ください。
※企画展観覧券をお持ちの方は、あわせてMOMASコレクションもご覧になれます。
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佐伯祐三《門と広告》1925年
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田中保《マドロナの影》1915年 特別出品(うらわ美術館蔵)
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田中保《東洋の少女(しとやかなナイチンゲール)》1918年頃
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エティエンヌ=ジュール・マレ《飛ぶ鳥》1885年頃(プリントは1988年)
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吉賀あさみ《水路の径φ2》2007年(特別出品/高谷丘人氏蔵)
埼玉県立近代美術館では、2008年度より「常設展」という呼称を「MOMASコレクション」に改めました。当館の常設展では2002年度以降、外部からの借用作品や現存作家のご協力によって、所蔵作品を核としつつも従来の常設展のイメージに捉われない、企画性の高いプログラムを実施してきました。名称変更はこうした意欲的な姿勢を示そうとするものであり、これまで以上に充実した展示の実現を目指しています。
※MOMAS(モマス)は埼玉県立近代美術館(The Museum of Modern Art, Saitama)の略称です。