ボイス+パレルモ

2021.7.10 [土] - 9.5 [日]  

 

 第二次世界大戦以降の最も重要な芸術家のひとり、ヨーゼフ・ボイス(1921-1986)。彼は「ほんとうの資本とは人の持つ創造性である」と語り、ひろく社会を彫刻ととらえ社会全体の変革を企てました。本展では60年代の最重要作品である《ユーラシアの杖》をはじめ、脂肪やフェルトを用いた作品、「アクション」の映像やドローイングなど、彼の作品の造形的な力と芸術的実践にあらためて着目します。
 ボイスは教育者として多くの芸術家を育成したことでも知られています。ブリンキー・パレルモ(1943-1977)もその教え子のひとりです。この早世の画家が60年代半ばからの短い活動期間に残したささやかで抽象的な作品は、絵画の構成要素を再構築しながら、色彩やかたちの体験をとおして私たちの認識や社会的な制度に静かな揺らぎをもたらそうとするものでした。
 一見対照的な二人のドイツ人作家の作品は、しかし、ボイスがのちにパレルモを自身にもっとも近い表現者だったと認めたように、芸術を生の営みへと取り戻そうと試みた点で共通していました。両者の1960—70年代の作品を中心に構成される本展は、約10年ぶりとなる日本でのボイス展であり、公立美術館としては初めてのパレルモ展です。
 二人の作家それぞれの特徴をうかがいながら、両者の交わりや重なりに彼らの実践の潜勢力を探る本展が、社会と芸術のかかわりについてあらためて問いかけ、芸術の営為とはなにかを見つめなおす機会となることを願います。


会期

2021年7月10日(土) ~ 9月5日(日)

※会期中、一部作品の展示替えがあります。
 前期:7月10日(土)~8月9日(月・振替休日)
 後期:8月10日(火)~9月5日(日)

休館日

月曜日(8月9日は開館)

開館時間

10:00 ~ 17:30 (展示室への入場は17:00まで)

観覧料

一般1300円(1040円)、大高生1040円(830円)
※( ) 内は20名以上の団体料金。
※中学生以下、障害者手帳等をご提示の方 (付き添いの方1名を含む) は無料です。
※併せてMOMASコレクション (1階展示室) もご覧いただけます。

主催

埼玉県立近代美術館、国立国際美術館

助成

遠山記念館 芸術・学術研究等助成金

後援

ゲーテ・インスティトゥート東京

協力

ルフトハンザ カーゴ AG

広報協力

JR東日本大宮支社、FM NACK 5

作家紹介

■ ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys, 1921-1986)

 1921年、ドイツのクレーフェルトで生まれたボイスは、その青年期までをオランダ国境付近の街クレーヴェにて過ごしました。第二次世界大戦中は空軍の通信兵となり、ソ連国境付近で追撃され瀕死の重傷を負いましたが、本人の語るところによると、現地のタタール人に助けられ一命をとりとめたそうです。治療のために用いられたという脂肪とフェルト、それが後の、ボイス芸術における重要な素材となったことはよく知られたところでしょう。終戦後は芸術家になるべくデュッセルドルフ芸術アカデミーで学び、そして1961年に同校の教授となってからは、パレルモをはじめ多くの芸術家を輩出しました。
 ボイスは生前、たとえば「拡張された芸術概念」や「社会彫塑」、「人は誰もが芸術家である」といった言葉を残しています。教育者としての仕事、それから政治活動や環境問題さえも芸術上の問題として引き受けるボイスにとって、重要なのは広く公衆に語りかけ、挑発し、駆り立てることにほかなりません。最晩年の1984年に来日した際も、展覧会の開催、アクションの実践、学生との討論会、等々によって、少なからぬ足跡をこの地に残していきました。
 そんなボイスがこの世を去るのは1986年のこと。以来、これまでくりかえし、この芸術家の仕事をふりかえる展覧会がドイツを中心に世界各地で開かれてきました。特異な彫塑理論にもとづくその造形は、たしかに捉えがたいものかもしれませんが、芸術を社会のあらゆる領域へと拡張するべく生み出された作品群は、いまなおアクチュアルな問題をはらんでいます。ボイスが20世紀を生きた芸術家のなかで、最も影響力をもった人物のひとりであることは間違いありません。

■ ブリンキー・パレルモ(Blinky Palermo, 1943-1977)

 生まれたのは1943年、戦時下のライプツィヒ。双子の弟ミヒャエルとともにすぐに養子に出され、ペーター・ハイスターカンプとして暮らすことになります。一家は1949年の東西ドイツ分裂に際して西側のミュンスターへと移り、そこで彼は高校生のころからジャズなどの音楽と美術に関心を寄せ、1962年にデュッセルドルフ芸術アカデミーに入学します。はじめシュルレアリスムの影響の強い絵画を描いていましたが、64年にヨーゼフ・ボイスのクラスに移って早々、マフィアでボクシングのプロモーターのフランク・"ブリンキー"・パレルモに由来するあだ名をつけられると、そこから「パレルモ」のみを取り出し、そのまま作家名にしてしまいます。学友にはゲルハルト・リヒターやイミ・クネーベルといった現代ドイツを代表する作家たちがいました。
 アカデミー在籍時より、20世紀初頭の抽象絵画や、同時代のアメリカ美術のさまざまな動向に影響を受けながら、カンヴァスや木枠といった絵画の構成要素じたいを問い直す独自の作品を手掛けるようになります。1977年にモルディブに客死するまで、既製品の布を縫い合わせた「布絵画」、建築空間にささやかに介入する壁画、小さなパネルを組み合わせた「金属絵画」などを展開しました。絵画を手段としながらも、意味の生成や感情の表出へは向かわず、むしろ絵画制作をとおしてさまざまな物事の仕組みそのものを問おうとする、そうした繊細な作品は近年徐々に評価が高まり、ドイツ本国のみならずヨーロッパやアメリカで回顧的な展覧会が続きました。実質的な活動期間は15年にも満たないため、残された作品は限られていますが、「作家のための作家」として今なお繰り返し参照されています。

展示予定作品

約130点(ボイス 約80点、パレルモ 約50点)

見どころ

■ ボイスとパレルモ、対照的な作家の組み合わせによる二人展です。

 かたや雄弁に政治活動も盛んな彫刻家。かたや寡黙に絵画の可能性を探求した画家。対照的な二人ですが、作品を並べてみれば造形的な特徴において、あるいは制作にあたっての姿勢において、意外な近さを認めることができます。本展ではボイスとパレルモそれぞれの作品を概観しながら、「フェルトと布」「循環と再生」といったキーワードで両者を並置することで新たな視点の提示を試みます。

■ ボイスの「作品」に着目します。

 「社会彫塑」を訴え、社会全体の変革を企てるボイスの思想はひろく影響を及ぼしました。しかし本展ではあらためて彼の「作品」や造形行為に着目します。日本では展観の機会が限られていた初期のドローイング、欧米以外では初めての展示となる60年代のボイスの最重要作品《ユーラシアの杖》、国立国際美術館が新収蔵した《小さな発電所》など代表作を含む約80点でボイス作品の本質に迫ります。

■ ボイスのパフォーマンス「アクション」の映像を6本上映します。

 ボイスの芸術実践において「アクション」と呼ばれるパフォーマンスは核となるものでした。ボイス作品の多くがアクションで用いられた素材や道具に由来します。しかしこれまで、ボイスのアクションを国内でまとめて見る機会は限られていました。本展では代表的なアクションの映像6本をボイス作品とともにご覧いただきます。

■ ブリンキー・パレルモをまとまって紹介する貴重な機会です。

 ブリンキー・パレルモはいまだ日本では言及される機会の少ない作家ですが、絵画制作をとおしてさまざまな物事の仕組みじたいを問おうとする繊細な作品は近年徐々に評価が高まり、2000年以降、彼の作品を振り返る大規模な展覧会がドイツ本国やヨーロッパ、アメリカで続いています。本展では15年に満たない短い活動期間に手掛けられた貴重な作品を、1960年代の初期作品、今日では現存しない壁画作品のドキュメンテーション、70年代の代表作である「金属絵画」など約50点で振り返ります。

巡回情報

会場:国立国際美術館

会期:2021年10月12日(火) ~ 2022年1月16日(日)

プレス関係者の方へ

ボイス+パレルモ展プレスリリース20210607.pdf

 

ヨーゼフ・ボイス《ブリンキーのために》ca.1980年 ヒロセコレクション


ヨーゼフ・ボイス《ユーラシアの杖》1968/69 クンストパラスト美術館、デュッセルドルフ ©Kunstpalast - Manos Meisen - ARTOTHEK


ヨーゼフ・ボイス《ジョッキー帽》1963,85 豊田市美術館


ブリンキー・パレルモ《無題(布絵画:緑/青)》1969 クンストパラスト美術館、デュッセルドルフ ©Kunstpalast - ARTOTHEK


ブリンキー・パレルモ《無題》1977 個人蔵

 

©VG Bild-Kunst, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2021 E4244